
「ゲームを一本、ひとりで最後まで作りきる」。これは私がゲーム業界に入ってから、ずっと胸の奥にしまっていた目標でした。アートディレクターとして大きなチームの中で絵とUIを見てきた私にとって、プログラム、サウンド、シナリオ、ストア申請までをひとりで回すのは、正直に言えば無理な話だと思っていました。それが変わったのは、生成AIとコーディングAIが「手伝ってくれる同僚」と呼べるくらいまで育ってきたからです。
この連載では、私が個人で作ったピンボール×恋愛シミュレーションのゲーム「ハートバウンス(HEART BOUNCE)」を、どんな順番で、何にAIを使い、どこでつまずいたのかを、制作順にすべて書いていきます。第1回は全体像です。細かい手順に入る前に、「AIにどこまで任せて、どこを自分で握ったか」という地図を先にお見せします。
ハートバウンスはどんなゲームか
ハートバウンスは、Unityで作った縦画面のモバイルゲームです。フリッパーでボールを弾いてステージをクリアすると、ヒロインとの会話が始まります。会話の中の選択が好感度として積み重なり、好感度が上がるとロックされていた物語が少しずつ開いていく。ヒロインは12人で、ガチャで迎える形にしてN・R・SR・SSRのレアリティを用意しました。日本語・韓国語・英語・繁体字中国語の4言語に対応しています。
現在、Android版をGoogle Playで公開しています。この連載で書いている内容がどんな形になったのか、実際に触ってもらうのが一番早いと思います。
▶ HEART BOUNCE ピンボール恋愛シミュレーション(Google Play)
なぜピンボールだったのかというと、ひとりで作れる規模の中で「触っているだけで気持ちいい」遊びを作りたかったからです。恋愛シミュレーションは、どうしても読む時間が長くなります。読むだけのゲームはスマホだと途中で離れられやすいので、指で弾く手触りのある遊びを間に挟みたかった。物理挙動はUnityの機能でかなりの部分をまかなえるので、ひとり開発でも作り込みやすいという計算もありました。
企画の段階でいちばん悩んだのは、「ピンボールと恋愛ストーリーをどうつなぐか」です。最終的に、ピンボールは物語へ進むための入口、会話の選択肢は好感度を積み上げる場所、と役割を分けました。遊ぶ部分と読む部分の役割がはっきりしたおかげで、AIに作業を振るときの指示もずっと書きやすくなりました。この設計は第4回で詳しく書きます。
私の担当とAIの担当をどう分けたか
ひとりで作るといっても、実際には「私+何種類かのAI」のチームです。役割はおおまかに次のように分けました。
- 企画・ゲームデザイン・最終判断:私
- 仕様書やデータ設計の壁打ち、文章の下書き:チャット型のAI(Claude)
- Unityのスクリプト実装、リファクタリング、検証ツール作成:Claude Code
- キャラクターや背景などの画像:ChatGPTの画像生成
- ボイスと効果音:ElevenLabs
- ピンボール台の基本形、素材の最終調整、UIの仕上げ:私(Photoshop)
ポイントは、AIを「作業者」としては大量に使いながら、「判断者」の席には一度も座らせなかったことです。たとえばClaude Codeにスクリプトを書いてもらうときも、どのクラスが何に責任を持つかは私が先に決めて、文章で渡していました。逆にそこを曖昧にしたまま「いい感じに作って」と頼んだ日は、だいたいあとで作り直しになっています。
いちばん分かりやすい例がピンボール台のデザインです。最初は、頭の中にあるイメージを言葉で伝えればAIが描いてくれるだろうと思っていました。ところが何度頼んでも、フリッパーの角度やレーンの幅、バンパーの配置が思ったとおりになりません。ピンボールの台は、見た目である前に「ボールがどう転がるか」を決める設計図です。そこで、基本の形をPhotoshopでベクターのイメージとしてきちんと作り、その形に合わせてデザインをし直しました。形を決めるのは私、装飾を広げるのはAI。この分担に落ち着いてから、台のデザインが一気に進みました。
制作の順番(この連載の目次)
振り返ると、制作は大きく6つの段階に分かれていました。連載もこの順番で書きます。
- 企画と全体設計(この記事)
- 開発環境づくり:Unity、GitHub、Claude Codeを2台のPCで回せるようにする
- 素材づくり:ComfyUIから始めて、ChatGPTとElevenLabsに切り替えるまで
- ストーリー設計:キャラクターバイブルと章立て、好感度の仕組み
- セリフデータ:4言語のCSVと、自作の検証スクリプト
- リリース:Google Playでの公開と、iOS版の準備
実際には一直線ではなく、素材を作りながらストーリーを直したり、リリース準備中に仕様を戻したりと、何度も行き来しています。ただ、順番として「環境→素材の作り方→物語の器→中身のデータ→出す」という流れを意識しておくと、迷ったときに今どこにいるのかが分かりやすくなりました。
3か月という期限と、途中での方向転換
制作期間は、基本的に3か月で作り上げることを目標にしました。会社の仕事をしながらの個人開発なので、期限を決めないといつまでも終わらないからです。
この期限があったからこそ、途中で大きな方向転換もしました。最初は、ローカルのPCでComfyUIを動かして素材を作る予定で、ワークフローまで組んでいました。ところが、モデルを選んで、それなりの品質の絵を安定して出せるようになるまでには、想像以上の時間がかかると分かったのです。3か月の中でそこに時間を使うのは無理だと判断し、画像はChatGPTの画像生成に切り替えました。
切り替えてからも、楽になったわけではありません。一番難しかったのは、デザインの統一性を保つことです。キャラクターごとに絵柄や色の雰囲気がずれると、ゲームの画面に並べたとたんにばらばらに見えてしまう。そこで、統一したいイメージを表すプロンプトをひな型として固定し、キャラクターごとのコンセプトだけを差し替える形にしました。この話は第3回で詳しく書きます。
最初に決めておいてよかった3つのこと
ここからは注意点です。作り始める前に決めておいて本当によかったことが3つあります。
ひとつ目は、「何を作らないか」のリストです。ひとり開発は、思いついた機能を全部入れようとすると確実に終わりません。AIが手伝ってくれると実装の手間が下がるぶん、つい機能を足したくなります。私はオンライン対戦やギルドのような機能を最初から「作らない」側に置きました。
ふたつ目は、データの形を先に決めることです。セリフ、キャラクター、レアリティ、好感度の閾値といったデータを、どのファイルにどんな列で持つか。これを先に固めたおかげで、AIに「このCSVを読むローダーを書いて」「このCSVを検証するスクリプトを書いて」と、具体的に頼めるようになりました。形が決まっていないと、AIは毎回それらしい形を勝手に作ってしまい、ファイルごとに形式がばらばらになります。
みっつ目は、作業ログを残すことです。AIとのやりとりは流れていくので、何を決めたかがすぐ分からなくなります。私は決定事項を短いメモにまとめ、次に頼むときに必ず渡すようにしました。これは人間のチームで仕様書を回していたときの習慣そのままで、ゲーム会社での経験がいちばん生きた部分かもしれません。
AIを使うときに一番気をつけたこと
全体を通して一番気をつけたのは、「AIは面白さを決めてくれない」という一点です。コードは動くものを出してくれますし、絵もそれらしいものが出てきます。でも、ピンボールの台のどこにバンパーを置けば気持ちいいか、どのセリフでキャラクターを好きになってもらえるかは、自分で遊んで、自分で読んで、違和感を言葉にするしかありません。
漫画家を目指していた頃、編集さんに何度も言われたのは「読者が次のページをめくりたくなる理由はどこ?」という質問でした。ゲームでも同じで、AIが出してきたものに対して「プレイヤーが次も遊びたくなる理由はどこ?」と自分に聞き続けることが、ひとり開発での私の仕事の大半だった気がします。
私がAIに仕事を頼むときの「型」
最後に、この連載全体で繰り返し出てくる、私の頼み方の型を先に紹介しておきます。ゲーム会社で外注さんに発注書を書いていたときの書き方を、ほぼそのままAI向けにしたものです。
- 目的:この作業が終わると、ゲームの中で何ができるようになるのか
- 前提:すでに決まっていること(データの形、使うフォルダ、触ってはいけないファイル)
- 範囲:今回やること、今回はやらないこと
- 完了条件:何を確認できたら終わりとするか(エラーが出ない、テストが通る、指定の件数が出力される、など)
- 返してほしいもの:変更したファイルの一覧と、変更理由の短い説明
特に効いたのは「今回はやらないこと」と「完了条件」の2つです。AIは親切なので、頼んでいない箇所まで直してくれることがあります。ありがたい反面、ひとり開発では自分が把握していない変更が一番怖いので、範囲を先に区切っておくようにしました。完了条件も同じで、「動けばOK」ではなく「このシーンを再生してコンソールに赤いエラーが出ないこと」のように、自分の目で確かめられる形で書きます。
外注さんへの発注と違うのは、AIは何度頼み直しても嫌な顔をしないことです。だからこそ、頼み直しが前提の小さな単位で区切って出すほうが、結果的に早く終わりました。大きな機能を一度に頼むより、「データを読む部分」「画面に出す部分」「保存する部分」と3回に分けたほうが、途中で私が判断を挟めるからです。

まとめ
ハートバウンスは、私が判断を握り、AIを作業の同僚として使ったひとり開発です。3か月という期限の中で、ComfyUIからChatGPTへの切り替えのような方向転換もしながら、作らない機能のリスト、先に決めたデータの形、ピンボール台のように「形は自分で決める」線引きに助けられて完成までたどり着きました。次回は、この体制を支える開発環境づくりと、2台のPCを行き来する中で踏んだ失敗を書きます。

