パースの基礎入門|背景が苦手な人のための遠近法

あおりで見た建物(パース)
あおりで見た建物(パース)(Photo: Unsplash

「キャラは描けるけど背景が苦手」という人は本当に多いです。その苦手意識のほとんどは、パース、つまり遠近法への苦手意識から来ています。線がなんとなく合わない、空間が歪む、奥行きが出ない。パースは難しそうに見えますが、根っこの原理はとてもシンプルで、いくつかのルールを理解すれば誰でも扱えます。今回は、背景が苦手な人のために、一点透視から三点透視までを、理屈と描き方の両面から順に解説します。

パースは「遠くのものは小さく見える」の仕組み化

まず、パースが何をしているのかを掴みましょう。パースの正体は、「遠くのものほど小さく、一点に向かって収束して見える」という、目に見える現象をルール化したものです。線路が遠くで一点に集まって見える、あの現象を、絵の中で正確に再現するための道具立てです。

ここで二つの重要な言葉を覚えます。一つは「アイレベル」。これは見ている人の目の高さで、画面上では水平線として現れます。すべての基準になる線です。もう一つは「消失点」。遠くで平行な線が集まっていく、収束の一点です。この二つ、アイレベルと消失点さえ理解すれば、パースの八割は掴めたようなものです。

背景が歪む人の多くは、このアイレベルを決めずに描き始めています。目の高さがどこにあるか曖昧なまま線を引くから、床と壁と天井がバラバラの方向を向いてしまう。まずは一本、画面のどこにアイレベルを引くかを決める。これがすべての出発点です。パースは特別な才能ではなく、この基準線をきちんと引けるかどうかの、手続きの問題なのです。

一点透視から始める

パースには一点、二点、三点透視がありますが、いきなり難しいものに挑まず、一点透視から体で覚えるのが正解です。一点透視は、消失点が一つだけの、最もシンプルな遠近法です。

まっすぐ前を向いて廊下やトンネルを見た構図を想像してください。正面の壁は歪まず、床と天井、左右の壁だけが、奥の一点に向かって収束していく。この一点が消失点です。手順としては、まずアイレベルを引き、その上に消失点を一つ打つ。あとは、奥行きを持つ線をすべてその消失点に向けて引き、幅と高さを表す線は水平・垂直のまま保つ。たったこれだけで、奥行きのある空間ができます。

一点透視は、部屋の内観、まっすぐな道、廊下といった構図に強く、しかもルールが単純なので破綻しにくい。背景の練習は、まずこの一点透視で、簡単な箱をいくつも描くことから始めてください。箱がきちんと空間に収まって見えるようになれば、家具でも建物でも、結局は箱の組み合わせで描けます。難しい構図に憧れる前に、一点透視の箱を正確に描く。この土台が、すべての背景の基礎になります。

二点・三点透視で自由度を上げる

一点透視に慣れたら、二点透視に進みます。二点透視は、消失点が二つある遠近法で、物を斜めから見た構図に使います。建物の角を斜めから見上げるような、立体感のある構図が描けます。

手順は一点透視の延長です。アイレベルを引き、その線上の左右に消失点を二つ打つ。物の垂直の辺は垂直のまま保ち、奥行きを持つ二方向の線を、それぞれ左右の消失点に向けて引く。すると、立方体が斜めに立って見えます。二点透視は、建物の外観、街並み、斜めから見た小物など、応用範囲がとても広い。ここまで扱えると、描ける背景の幅が一気に広がります。

三点透視は、さらに上や下方向にも消失点を加えたものです。高いビルを見上げる、あるいは高所から見下ろす、といった劇的な構図で使います。垂直だった辺も、三つ目の消失点に向かって収束させることで、迫力ある俯瞰やあおりが作れます。ただし三点透視は歪みやすく、扱いが難しいので、まずは一点と二点を確実にしてから挑むのが賢明です。焦らず、一点で土台を作り、二点で自由度を上げ、三点で演出を加える、という順で積み上げていきましょう。

パースに縛られすぎない

最後に、大切な心構えを一つ。パースはあくまで、説得力のある空間を作るための道具であって、絶対に守るべき法律ではありません。理屈に縛られすぎると、正確だけど窮屈でつまらない背景になってしまいます。

現場のプロは、厳密なパースを引いた上で、あえて少し崩すことがあります。広角レンズのように誇張したり、キャラを引き立てるために背景の消失点を意図的にずらしたり。ただし、これは正しいパースを理解しているからこそできる「意図的な崩し」です。原理を知らないまま崩れているのと、知った上で崩すのは、まったく別物です。だからこそ、まずは正確に引ける状態を作ることが先決になります。

また、実務ではパース定規や3Dの下絵など、パースを補助してくれる道具も充実しています。すべてを手で完璧に引く必要はありません。大切なのは、アイレベルと消失点という原理を理解した上で、道具も使いながら、狙った空間を作れること。背景が苦手なのは才能の問題ではなく、原理を手続きとして知らないだけです。一点透視の箱から一歩ずつ積めば、必ず描けるようになります。

練習メニュー:まず「箱」を極める

パースを理屈で理解したら、次は手を動かして体に入れる番です。ここで遠回りに見えて最強なのが、ひたすら箱を描く練習です。あらゆる背景も物も、突き詰めれば箱の組み合わせで捉えられるからです。

最初のメニューは、一つの消失点を打って、その周りに大小さまざまな箱を描くことです。アイレベルより上の箱、下の箱、左の箱、右の箱。それぞれ、消失点に向かう線が正しく収束しているかを確認しながら、画面いっぱいに箱を敷き詰めます。上にある箱は底面が見え、下にある箱は上面が見える、といった見え方の変化を、頭でなく手で覚えるのが目的です。これを一点透視で慣れたら、二点透視でも同じことをします。

次のメニューは、写真の上に線を引くトレーニングです。建物や室内の写真を用意し、その上に半透明のレイヤーを重ねて、床や壁、天井の線がどこに向かって収束しているかをなぞってみる。すると、アイレベルと消失点が実際の風景のどこにあるかが、はっきり見えてきます。現実の風景がパースの法則どおりにできていることを、自分の目で確かめられる、非常に効果の高い練習です。

最後に、箱を家具や建物に「肉付け」する練習です。正しく描けた箱を土台に、そこへ脚や引き出しを足せば机やタンスになり、窓やドアを足せば建物になります。難しそうな背景も、まず箱で当たりを取り、そこに要素を乗せていくと考えれば、途端に描けるようになります。いきなり複雑な街並みに挑むのではなく、箱を正確に描く力を土台として積み上げる。この順序が、背景の苦手意識を確実に溶かしてくれます。

この箱の練習は、続け方にもコツがあります。上手く描こうと気負うより、毎日少しずつ、正確さを一つずつ確かめながら積むのが効きます。今日は「アイレベルを必ず引く」、次は「消失点に向かう線がずれていないか確認する」というふうに、一回ごとに一つの点だけを意識する。すべてを一度に完璧にしようとすると疲れて続かないので、小さな確認事項を積み重ねる方が、結果的に速く身につきます。また、写真トレースで学ぶときは、ただ線をなぞって満足しないよう注意してください。なぞりながら「なぜこの線はここに収束するのか」を考え、トレースが終わったら、今度は同じ構図を何も見ずに描いてみる。見ないで描けて初めて、パースが自分のものになった証拠です。原理は単純でも、体に入れるには反復が要ります。箱を土台に、確認事項を一つずつ潰しながら積み上げていけば、苦手だった背景が、いつの間にか描けるものに変わっていきます。

アイレベルと消失点
アイレベルと消失点:一点透視の箱

まとめ

パースの正体は「遠くのものほど小さく一点に収束して見える」現象のルール化で、鍵はアイレベルと消失点の二つだけです。背景が歪む原因の多くは、アイレベルを決めずに描き始めることにあります。まず一点透視で箱を正確に描く土台を作り、次に二点透視で斜めの構図に広げ、最後に三点透視で迫力ある演出を加える、という順序で積み上げましょう。パースは守るべき法律ではなく空間を作る道具。原理を理解した上で、道具も使い、時に意図して崩す。そこまで来れば、背景の苦手意識は消えていきます。

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