模写で伸びる人と伸びない人の違い|正しい模写のやり方

紙にペンで描く
紙にペンで描く(Photo: Unsplash

模写は絵の練習として定番ですが、「たくさん模写しているのに上手くならない」という人と、「模写でぐんぐん伸びる」人にくっきり分かれます。同じ時間、同じ枚数を描いても、この差が生まれるのはなぜでしょうか。答えは、模写を「写す作業」としてやっているか、「盗む作業」としてやっているかの違いにあります。今回は、伸びる模写のやり方と、伸びない模写の落とし穴を、具体的な手順として解説します。

「なぞる模写」は上手くならない

まず、伸びない模写の典型を潰しておきます。それは、お手本をただ表面的になぞる模写です。線を目で追い、同じ位置に同じ線を引く。一見ちゃんと練習しているようで、これでは上達しません。

理由は、頭を使っていないからです。表面をなぞるだけだと、手は動いていても、「なぜこの線がここにあるのか」を一切考えていません。作業としては完成しても、次に自分でゼロから描くときに応用できる理解が一つも残らない。だから何十枚なぞっても、白紙に向かうと元通り描けない、という現象が起きます。

これはトレース、つまり上からなぞる練習にも言えます。トレース自体は線の運びを体で覚えるのに有効ですが、それだけで上手くなると思うと危険です。模写で伸びる人は、線を写しているのではなく、その線が引かれた理由を写しています。手を動かす前に、頭を動かしているかどうか。ここが最初の分岐点です。

「なぜそうなっているか」を言語化しながら描く

伸びる模写の核心は、描きながら理由を問い続けることです。この目はなぜこの位置なのか、なぜここに影が落ちているのか、なぜこの線は太く、こちらは細いのか。一つひとつに「なぜ」を立てて、自分なりの答えを言葉にしながら描きます。

たとえば、キャラの顔を模写していて「頬の下に薄い影がある」と気づいたら、なぜかを考える。光が上から来ていて、頬骨の下がわずかに引っ込んでいるからだ、と理由に行き着く。この理解が残れば、次に自分でオリジナルのキャラを描くときにも、同じ理屈で頬に影を落とせます。理由まで掴んだものだけが、応用できる財産になります。

だから模写は、速く何枚も、より、一枚を深く分析しながらの方が効きます。描き終えたあとに、気づいたことをメモに残すのも有効です。「この作家は影の輪郭をぼかさず、はっきり描いている」「線の強弱を関節で変えている」。こうした発見の蓄積が、あなたの引き出しになります。模写とは、上手い人の頭の中を、絵を通して盗み見る行為なのです。

「模写」と「模写して外す」を分ける

もう一段レベルを上げるなら、模写を二段階で使うのがおすすめです。第一段階は、できるだけ忠実に写して、その人の技術を体に入れる。第二段階は、あえてお手本を見ずに、記憶だけで再現してみる、あるいは同じ理屈で別のものを描いてみる、です。

忠実な模写だけだと、お手本があるときしか描けません。本当に自分のものにするには、見ないで描ける状態まで持っていく必要があります。だから、一枚しっかり模写したら、次はお手本を閉じて、記憶を頼りにもう一度描いてみる。当然うまくいきませんが、そのときに「どこを覚えていなかったか」が明確になります。そこがまだ理解できていない箇所です。

さらに、学んだ理屈を別の対象に応用する練習が効きます。ある作家の影の付け方を模写で学んだら、その付け方で、まったく別のキャラや静物を自分で描いてみる。これができて初めて、模写で得たものが技術として定着します。写して終わりではなく、見ないで再現し、別のものに応用する。この三段階を回すと、模写は驚くほど強力な練習になります。

何を、誰を模写するか

最後に、模写の対象選びについて。伸びる人は、対象を意図して選んでいます。なんとなく好きな絵をランダムに模写するのではなく、「今の自分に足りないもの」を持っている作品を選ぶのです。

たとえば、線が硬いのが悩みなら、しなやかな線が魅力の作家を。色が濁るなら、色使いが澄んでいる作品を。構図が単調なら、大胆な構図の絵を。自分の弱点を補ってくれる相手を選ぶことで、模写の効果が一点に集中します。逆に、すでに得意な要素ばかり模写しても、伸びしろは小さい。

また、一人の作家を集中して何枚も模写するのも有効です。同じ人を続けて模写すると、その人の一貫したクセ、たとえば目の描き方や影の付け方の法則が見えてきます。バラバラに一枚ずつ模写するより、法則が掴めるぶん、応用が効きやすくなります。誰を、何のために模写するか。この選択を意識するだけで、同じ時間の練習でも、身につくものの量がまるで変わってきます。

模写を「発信」や「オリジナル」につなげるとき

模写は最高の練習ですが、それを外に出したり、自分の作品に生かしたりする段になると、注意すべき点があります。ここを曖昧にすると、思わぬトラブルにもなりかねません。

まず、練習として模写するのは自由ですが、それを公開・発信する場合は扱いに気をつける必要があります。他人の作品の模写を、あたかも自分のオリジナルのように見せるのは避けるべきです。SNSやポートフォリオに載せるなら、模写であること、元の作者が誰かを明記するのが最低限の礼儀であり、トラブルを避ける基本です。とくにポートフォリオでは、模写ばかりを並べると「自分で発想する力がない」と受け取られることもあるので、あくまで練習の一部として扱うのが無難です。

そして本題は、模写で得たものを、いかにオリジナルへ橋渡しするかです。模写はゴールではなく、上手い人の技術を借りて自分の引き出しを増やすための手段でした。だから、模写で学んだ影の付け方や線の運びを、次は自分が考えたキャラや構図で使ってみる。この「借りた技術を、自分の題材で再現する」ステップを踏んで初めて、模写は本当にあなたの力になります。

理想的なサイクルは、模写で技術を吸収し、その理屈を言語化し、見ないで再現できるか試し、最後に自分のオリジナルで応用する、という流れです。ここまで回して、模写は完結します。上手い人の絵を借り続けるのではなく、借りたものを自分の表現に溶かしていく。その意識を持てるかどうかが、模写止まりの人と、模写を糧にオリジナルを描ける人との分かれ目になります。

練習量の目安についても触れておきます。模写は、たまに大量にやるより、少しずつでも毎日続ける方が効きます。理由は、観察と分析の目が、間を空けると鈍ってしまうからです。一日に一枚を深く模写する時間が取れないなら、部分模写でも構いません。手だけ、目だけ、髪だけ、といったパーツを、一日一つ、理由を考えながら写す。これを続けるだけでも、引き出しは着実に増えていきます。大切なのは、枚数のノルマに追われて、なぞるだけの模写に逃げないことです。一枚を浅く十枚やるより、深く一枚やる方が、残るものは多い。そして、模写で学んだことは、必ずその週のうちに自分のオリジナルで一度使ってみる。学んだ直後に応用すると、定着率が段違いに上がります。模写は、続ける習慣と、応用する習慣の両方があって、初めてあなたの本当の力になります。

忠実に模写→見ないで再現→別題材に応用
忠実に模写→見ないで再現→別題材に応用

まとめ

模写で伸びるかどうかは、枚数ではなく「頭を使っているか」で決まります。表面をなぞるだけの模写は理解が残らず上達しません。一本一本の線に「なぜ」を立て、理由を言語化しながら写すこと。さらに、忠実に模写したら、見ないで再現し、学んだ理屈を別の対象へ応用する三段階を回すと、技術として定着します。対象は、自分の弱点を補ってくれる作家を意図して選び、一人を集中して模写して法則を掴む。模写とは写す作業ではなく、上手い人の思考を盗む作業だと捉え直しましょう。

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