ゲーム会社のデザイナーはイラストだけでは働けない理由

ノートPCとゲームコントローラー
ノートPCとゲームコントローラー(Photo: Unsplash

「絵が上手ければゲーム会社のデザイナーになれる」と思っている学生さんは、今でも少なくありません。しかし現場の実感として、イラストが描けるだけでは、もう通用しにくくなっています。誤解しないでほしいのは、絵が要らなくなったのではなく、絵は「前提」になり、その上に別のスキルが積み重なるようになった、ということです。今回は、現代のゲーム会社のデザイナーに何が求められているのか、なぜイラスト一本では厳しいのかを具体的に解説します。

「一枚絵を描く仕事」はごく一部

まず現実を共有します。ゲーム開発におけるデザイナーの仕事のうち、いわゆる魅力的な一枚絵、たとえばキービジュアルやキャライラストを描く仕事は、実はごく一部です。多くの作業は、その絵を「ゲームの中で機能させる」ための工程に費やされます。

キャラが決まったら、それを様々な角度・表情・ポーズに展開し、UIに載る小さなアイコンにし、アニメーションのための部品に分解し、実際の画面に配置して見え方を調整する。背景なら、一枚描いて終わりではなく、視差やライティング、当たり判定を意識した作りにする。つまりデザイナーの仕事は、絵を描くことよりも、絵をゲームという動く仕組みの中に組み込むことに重心があります。

だから、たとえ画力が高くても、この「組み込む」工程の知識やツールが扱えないと、現場では戦力になりにくい。逆に、絵は平均的でも、仕様に沿って素材を的確に量産し、実装まで見据えて作れる人は重宝されます。上手い一枚を描く力と、ゲームを成立させる力は、別物として評価されるのです。

求められるのは「複合スキル」

現代のゲームデザイナーに求められるのは、単一の画力ではなく、複数の能力の掛け算です。最低限の絵の土台に加えて、いくつかの隣接スキルが乗って初めて一人前と見なされます。

一つはツールの習熟です。ペイントソフトだけでなく、UIならデザインツール、3Dが絡むならモデリングやテクスチャの基礎、エフェクトなら専用ツール、実装ならゲームエンジンの扱い。全部を極める必要はありませんが、自分の担当領域の道具は使いこなせないと話になりません。

もう一つは仕様を読む力です。ゲームは企画書や仕様書に沿って作られます。この画面には何が表示され、どう動き、どんな状態があるのか。それを読み解き、必要な素材を過不足なく洗い出す力は、絵の技術とは別に必要です。さらに、他職種と会話する力も欠かせません。プランナーやエンジニアが何を求めているかを理解し、実装可能な形で絵を渡す。孤独に絵を仕上げるのではなく、チームの歯車として動けることが前提になっています。

なぜイラスト特化では不利になったのか

では、なぜ純粋なイラスト力だけでは戦いにくくなったのか。背景には、絵を描ける人が世界中で爆発的に増えたことと、開発が高度化・分業化したことがあります。

上手いイラストを描ける人は、今やSNSにいくらでもいます。純粋な画力だけで競うと、母数が膨大で、抜きん出るのは非常に難しい。一方で、絵の土台に加えて、UI設計もできる、3Dも触れる、実装も分かる、といった複合スキルを持つ人は、意外と多くありません。だから企業は、尖った画力よりも、絵を軸にゲーム制作の複数工程を橋渡しできる人材を求めるようになりました。

これは絵描きにとって悲観的な話ではありません。むしろ、飛び抜けた天才的画力がなくても、隣接スキルを組み合わせれば十分に価値を出せる、という意味でもあります。画力で世界一を目指す代わりに、「絵が分かるUIデザイナー」「実装が分かるキャラデザイナー」という掛け算のポジションを狙う方が、現実的で、しかも需要があります。

これから何を積み上げるか

ゲーム会社のデザイナーを目指すなら、絵の練習と並行して、隣接領域に手を伸ばしておくことを強くおすすめします。ポイントは、全部を中途半端にやるのではなく、絵を軸にしつつ「もう一本の柱」を決めることです。

たとえば、キャラが好きならキャラ設計を軸に、UIやアニメーションのどちらかを second skill として深める。世界観づくりが好きなら、背景とライティング、あるいは3D背景を組み合わせる。自分の絵の得意分野に、ゲームで需要のある工程を一つ接続する意識です。

そして、作ったものは必ず「ゲームの中で動く形」まで持っていく癖をつけてください。イラストを一枚描いたら、それをUIに載せたモックにする、簡単なエンジンで動かしてみる。実装や運用まで想像して作られた素材は、ポートフォリオでも一目で「現場で使える人だ」と伝わります。絵は入口であって、ゴールはゲームを成立させることだ、という視点を早くから持てるかどうかが、これからのデザイナーの分かれ目になります。

学生のうちに作っておくと強いもの

では、これからゲーム会社を目指す人は、在学中に何を作っておけば有利でしょうか。答えは、「絵をゲームの中で機能させたところまで見せる制作物」です。

たとえば、キャラを一枚描いたら、そこで止めずに、そのキャラの三面図と表情差分、UIに載る顔アイコンまで作る。さらに、無料のゲームエンジンにそのキャラとUIを配置し、ボタンを押したら表情が変わる、くらいの簡単な動くものにしてみる。絵の技術は平均的でも、こうした「実装まで見据えた一式」を作れる学生は、採用側から見ると非常に頼もしく映ります。なぜなら、入社後にすぐ現場の流れに乗れることが想像できるからです。

背景が好きなら、一枚絵で終わらせず、パースの効いた背景に簡単なライティングを加え、キャラを置いたときの見え方まで作り込む。UIに興味があるなら、実在しない架空のゲームの、タイトルからメニュー、バトル画面までの一連の画面を、一貫したトーンで設計してみる。テーマは何でも構いません。共通するのは、「単発の絵」ではなく「ゲームという文脈の中で成立する制作物」を見せることです。

こうした制作は、画力の勝負を避けて、複合スキルで勝負する練習にもなります。飛び抜けた絵が描けなくても、絵を軸に工程をつなげられる人には、確実に居場所があります。学生のうちから「絵はゴールではなく、ゲームを成立させる部品だ」という視点で作り続けた人が、就職活動でも、入社後も、一歩先を行くことになります。

こうして作った制作物は、ただ手元に置くのではなく、発信して見てもらうことでさらに価値が高まります。制作の過程をSNSに載せ、なぜこの設計にしたのかを短く添える。すると、あなたが「絵を描ける人」ではなく「ゲームを見据えて設計できる人」だと、周りに伝わっていきます。企業の採用担当が、SNSやポートフォリオを通じて才能を見つけることも、今では珍しくありません。発信を続けることは、そのまま機会の入口を増やすことでもあります。大切なのは、完璧な大作を一つ抱え込むより、ゲームの文脈で成立する制作物を、過程も含めて外に出し続けることです。絵の技術を磨きながら、それをゲームの中で動く形にし、発信して見せる。この三つを在学中から回せた人が、就職の場でもその先でも、確かな強みを持って歩いていけます。

画力を前提に積み上げる複合スキル
画力を前提に積み上げる複合スキル

まとめ

現代のゲーム会社では、イラストが描けることは前提であり、その上に複合スキルが求められます。仕事の多くは一枚絵ではなく、絵をゲームの仕組みに組み込む工程で、ツール習熟・仕様を読む力・他職種と話す力が欠かせません。純粋な画力だけでは母数が多すぎて戦いにくい今、絵を軸に「もう一本の柱」を接続する掛け算が現実的な強みになります。描いた素材をゲームの中で動く形まで持っていく習慣が、現場で通用するデザイナーへの近道です。

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